△▲△ハスクバーナ440e分解(3)△▲△
吸気・掃気システムについて解説します。少し長くなるかと思いますが、お付き合いください。
環境エンジンを謳うX-TORQ。排気ガス中の炭化水素、窒素酸化物などの有害物質を
最大70%も削減しています。有害物質は未燃焼の混合気に多く含まれます。
通常の2サイクルエンジンは、燃焼室に吸気された混合ガスで燃焼済みのガスを押し出す
のですが(掃気)、このとき生の混合ガス(有害ガス)も勢いで若干吹き抜けてしまいます。
これを最小限にとどめることが環境エンジンの命題です。一般的には、排気ポートに対して
遠ざかる方向へ混合気を充填したり、マフラーに工夫をして混合気を押し戻す方法も
ありますが、X-TORQエンジンはそもそも『掃気を混合ガスではなく空気』で行おうと
いうものです。440eのシリンダーに2つのポートがあるのはこのためで、混合気流入用と
空気流入用になります。
※以下の説明は2ストロークエンジンの基本的な仕組みを理解しているとの前提で行います。
あいまいな方は Wikipedia 等で調べてご理解の上どうぞ。
まずシリンダー・ピストン各部を(A)~(G)で表します。
ピストン上昇過程、中間点あたりでは(A)、(B)、(C)それぞれのポートは閉じています。
さらに ピストンが上昇をすると、
ピストンの溝(F1)が通過することにより、エアインテーク(A)と吸気ポート(C)が連絡します。
このとき混合気吸入ポート(B)は閉じていますので、混合気に先行する形でまずエアが
バイパス経路(D)を通って、ポート(E)よりクランク室内に流入するのです。
さらにピストンが上昇し、上始点近くまで上昇すると、
引き
続いて(B)が開き混合気がクランク室内に流入します。
次にピストン下降過程で燃焼室内に、先行流入したエアが(C)から送り込まれます。
このエアが燃焼済みのガスを排気ポート(G)へ押し出し、みずからも(G)から排出されます。
この間に後行流入された混合気が(C)から燃焼室へ入り込むのです。
この一連の流れがX-TORQエンジンなのです。
簡単に言いましたが、これを実現するためには非常に高度な流体管理が必要で、
そのために払われた技術者の努力に敬意を表します。
さてここでひとつ疑問が残ります。ピストンの溝(F2)です。
この役割がいまひとつ理解できません。この溝はピストンの移動過程で(C)とつながりますが、
他にどことも連絡しておらず袋小路になっています。
すなわちクランク室とは連絡しながら流れ込むであろうガスがどこへも逃げないのです。
考えられることはクランク室内の圧力を調整していることくらいですので、他のポートが
すべて閉じたタイミングで、クランク室内の圧をわずかに変える役割を果たしているのでは
ないでしょうか。 この圧力調整が流体の微妙な動きをコントロールしているとも考えられます。
さらに仮説(あくまでも想像ですが)を立てますと、ピストン下降時にはクランク室の圧が高まり
ますので、(C)通過時に(F2)へはガスが流入するはずです。次にピストン上昇時には
クランク室の圧が負圧になりますから(C)通過時には(F2)からガスがプラスαの圧をもって
クランク室に流れ込む ことになります。この直後に(F1)が(C)を通過して、前述のエア吸入
が行われます。その直前に経路(D)の内圧を(F2)の圧で相殺もしくは上回って、
エア吸入の流速を高めているのかもしれません。う~ん、もうちょっと深いように思いますが、
私の想像はここまでです。
いずれにしてもこの溝(F2)がX-TORQエンジン開発の白眉ではないかという気がしますが、
いかがでしょう。
440e分解(4)へつづく・・・